クロックスって、ご存知ですよね。合成樹脂製の、穴がたくさん空いたカラフルなスリッポンタイプのシューズです。
一時期かなり流行しましたし、今も小さいお子さんなどに根強い人気があります。夏になると、その蒸し暑さから、特によく見かけるようになるでしょう。
ところで、最初は穴が空いているだけだったクロックスですが、ある時から様々なデザインのチャームが穴にはめられたクロックスを見かけるようになったのに気づいた方もいらっしゃるでしょう。
今回ご紹介するのは、あのチャームを製造販売して億万長者になったシェリ・シュマイザーです。
クロックスをデコレーション
2005年夏、コロラド州ボールダー、41歳の専業主婦シェリ。彼女は、3人の子供達と遊んでいました。通気孔がたくさん空いているクロックスは夏にぴったりで、家に12足もありました。
当時7歳だった長女レキシーが、何気なくソーイングセットを取り出しました。そこでシェリが、クロックスの穴にラインストーンや粘土やボタンをつけてみたところ、レキシーは大喜び。「ママ、あたしこれ大好き!」。
シェリとレキシーは盛り上がって、結局、その日の午後はずっと、家中の12足のクロックスに次から次へと飾り付けするのに夢中でした。
それまで似たような印象だった12足のクロックスが、とたんにそれぞれの魅力を放ち始めましたのを、シェリは覚えています。
そして、シェリの夫リッチが帰宅しました。彼は、ITベンチャーをいくつも立ち上げた経験豊富な起業家でした。一目見て、彼は可能性を感じました。
リッチは、後にシェリにこう言っています。「僕はあの晩、クロックスを見てピンと来たんだよ」と。
クロックスは、それまでに世界中で2,600万足販売されており、そのうちの8割に穴が空いていました。そして、クロックスの購入者の大半は、アクセサリーが大好きな若者でした。
シェリとリッチは、単にこの大きな波の上に乗るだけでビジネスを作り上げることができると考えました。
事業計画なき戦略
リッチの考え方もあり、彼らは事業計画すら立てませんでした。
リッチいわく、事業計画の作成は時間も手間もとてつもなくかかるので、作り終わった頃には消耗しきっていて、素敵なデザインを生み出すパワーがなくなっているだろう。だから事業計画なんか立てずに、まずは動き出そう、と。
シェリが新しいデザインを考えている間、リッチは戦略を練りました。彼らは、会社を作り、最初はインターネットでチャームを販売することにしましたが、あっという間に販売量は増え、夏の終わりまでに両親も出資していました。
半年後の2006年2月、シェリのビジネスは絶好調で、通算25万個目を売っていました。シェリのチャームは300店舗で販売されており、月商は21万2,000ドル(2,100万円)。
リッチが自分の仕事を辞めてクロックス販売をフルタイムで手がけるような状況になっていました。チャームは、シェリと両親が、自宅の地下で手作りで注文に応じて製作していました。
試行錯誤と外注化
試行錯誤もありました。クロックス本体のサイズが大きくなれば穴も大きくなるので、1つのサイズの商品でどのクロックスにも合うようになるまでに、プロトタイプを6回も作り直しています。
販売が増えていったため、リッチはあらかじめ中国で大量生産する方法を探し出していましたが、一方でシェリは管理不能になるのを嫌がっていました。
その時点ですでに、壊れたチャームの交換品発送や返金対応で、自分の時間の大半を使っている状態だったのです。外注すればさらに増えることは容易に想像ができます。リッチはいやがるシェリを徐々に説得し、スタッフの採用と製造の外注化を進めました。
シェリが後に語ったことによると、彼女はそれまで主婦としてすべて自分のやり方を貫き、完璧に仕上がるまでやっていました。
事業が拡大するにつれ、それができなくなりスピードを落とすことを学びました。2年くらい経ってようやく、何事も一晩ではできないんだと納得できたそうです。
シェリはスタッフの採用に同意しましたが、人を使うのも初めてのシェリは、最初は苦労します。顧客の電話にスタッフがちゃんと答えているか、気になってずっとそばにいたりしたそうですが、それも2日も続かず、最後には任せることになります。
そしてシェリとリッチは、製造はアジアに外注し始めます。こうして二人は、現場の実務を自宅の外に出すことに成功します。
クロックス社
やがて、クロックス社の誰かがこのチャームに気づく日がやってきます。偶然ですが、クロックス本社はシェリの家からわずか16キロ先だったのです。
クロックスの創業者の一人、デューク・ハンソンが、地元のプールでレキシーがはいていたクロックスのチャームに目を留めて、彼女から話を聞きます。彼は間もなくレキシーに名刺を渡して「ママにここに電話するように言ってね」と頼みました。
2006年8月、チャームの取扱店舗は4ヶ月前の10倍である3,000店舗、売上も土曜の10倍の220万ドル(2.2億円)に伸びていました。
シェリとリッチはクロックスの経営陣と会いましたが、その時点では誰もシェリの会社の買収を提案しませんでした。シェリは、ほっとしました。彼女は、自分自身の手でチャームのビジネスを大きく伸ばせるか、やってみたかったのです。
機が熟するのを待っている間、シェリは300以上の新しいデザインを生み出し、4000軒の小売店と販売契約を結びました。品揃えが豊富になり、顧客が増え、販売チャネルが増えることで、企業価値は跳ね上がりました。
買収による変化
2006年12月、つまりシェリが娘のために初めてチャームを作った1年半後、クロックスは、シェリとリッチが役員に留まることを条件に、シェリの会社ジビッツをなんと2,000万ドル(約20億円)で買収したのです。
クロックス傘下に入ったことによる変化もあります。スパイダーマンやバグスバニー等のメジャーキャラクターのデザインも加わり、シェリは商品ラインナップを拡げ、クロックスのチャーム以外にメッセンジャーバッグや携帯ケースもデザインし始めました。
今日、シェリは真新しいピカピカのオフィスで、世界的なビジネスのチーフ・デザイン・オフィサーとして活躍しています。彼女自身はデザインを学んだことはありません。
自らパソコンでデザインを作れたらと思ったこともあるそうですが、現在は、周りに優秀なデザイナーが揃っていて、彼女は素敵な新しいアイディアを生み出すことに注力しているそうです。
まとめ
彼女は、家族や友人によく言われるそうです。
「ここには穴があるよね、どうして私はこれに気がつかなかったんだろう」と。ちょっとしたアイディアをどこまで拡げられるか、シェリは本当に良い例でしょう。
同じクロックスを見ても、単に穴があるなと思う人、そこに可能性を見いだす人。さまざまだろうと思います。あなたの周りにも、よく見れば、次のシェリになれるネタがあるのかもしれませんよ。
そして、大きかったのは夫リッチの存在でしょう。彼は小さなビジネスをどうやって大きくするかを知っていました。
シェリがデザインやアイディアや返品対応に注力する間、彼は製造してくれるメーカーを探したり、シェリにスタッフの採用を勧めたり、特許を申請し終わるまではチャームが外に出ないようにしたりと常に会社が次のフェーズに移るのをサポートしました。
デザインの力、そしてビジネスチャンスを見いだす力、それを大きくしていくノウハウ。シェリとリッチの夫婦は、二人の中にたまたまこれらが揃っていた希有な例かもしれません。
でも、最初のきっかけはシェリの子供との遊びから始まっていますし、拡大していく時には、スタッフを外から雇いました。足りないものは外部の力を借りればよいのです。
【参考URL】http://www.readersdigest.com.au/accidental-entrepreneur-jibbitz
http://en.wikipedia.org/wiki/Jibbitz
http://money.cnn.com/2006/11/02/magazines/business2/crocs_side.biz2/index.htm
http://money.howstuffworks.com/personal-finance/budgeting/how-to-million-dollars7.htm