「企業には世界をよくする力がある」というシンプルな信念のもとに、奮闘を続けた起業家がいます。ザ・ボディショップ創業者アニータ・ロディックです。
1976年の創業以来、企業を発展させるだけでなく、よりよい社会と環境を求め続けました。
その結果、ボディショップは世界中で店舗を持つグローバル企業に成長しただけではなく、社会貢献を企業の理念として掲げ、世界に影響をあたえるようになりました。
その半生を描いた本は今なお、「ユニークなビジネスのアプローチを書いた優れた本」「うまくやるよりもよいことをしようとした企業についてかかれた本」など、賞賛を浴び続けています。
ロディックのとったユニークなアプローチとはどういうものだったのでしょうか。
成功までの道のり
起業まで
1924年のイギリス、リトルハンプトンで、イタリア系移民の両親のもと、4人兄弟の3番目に生まれました。両親はレストランの経営者でした。大学で教員資格をとったものの、教師の生活にとどまることはありませんでした。
パリのインターナショナル・ヘラルドトリビューン紙で働き、ジュネーブで国際連合国際労働機関に勤務した後、世界放浪の旅に出発します。
時代は自然への回帰と愛と平和を唱えるヒッピーの全盛期でした。ロディックの旅もヒッピースタイルのものでした。
帰国後、ゴードン・ロディックと結婚し、1971年から夫婦でホテル、レストランを経営した後、ブライトンでザ・ボディショップ1号店を開店したのは1976年のことです。
サバイバルとコンセプトの融合した1号店
もともとザ・ボディーショップは、ゴードンがアメリカ旅行にでかけて不在の間、自分と娘二人の生活費を稼ごうとして開いた店でした。
ロディックには化粧品の販売経験はなく、週300ポンドの稼ぎをあげればなんとかなる、というゴードンの言葉だけを信じて開業に踏み切ったのです。
「誰もそんなことは言わないけど、起業精神というのはサバイバルをすることなの。そしてクリエイティブな考えを育てていくのよ」
というロディックの言葉の通り、店は生活の糧を稼ぐサバイバルの場であり、放浪時代からつちかってきた「環境にやさしい化粧品」というアイデアを生かす場でもありました。
まず化粧品の量に着目します。当時、化粧品は大きく、高価な容器に入れられて売られていました。使えきれないほどの量をなぜ買わなければならないのか、という疑問がロディックにはありました。
使いやすくて小さなサイズであれば、顧客も気軽に試すことができるはずです。そこで安くて様々な大きさのあるプラスチック容器を使うことにしました。
また、販売する製品の原料はすべてハーブや木の実などの天然素材にしました。その中には、放浪時代に知ったカカオバター、アロエベラ、ホホバオイルなども含まれていました。
この天然素材を使った商品は、電話帳で見つけた小さな製薬会社に開発を依頼しています。
経済性を優先したロディックですが、コスト削減のためにとった手段が環境保護に結びついたことはたくさんありました。
プラスチック容器に製品をつめ、手書きの説明付きラベルを貼ったものの、容器の数が足りません。そこで、手持ちの容器や使用済み容器をリサイクルし、製品の詰め替えサービスを提供することにしました。
この試みは費用の削減につながっただけではなく、ごみを減らし、環境にも負荷をかけずにすむという思わぬ効果も生みました。
また、壁のシミを隠すために塗った緑色は、ちょうどヨーロッパ全土に押し寄せていたエコロジー意識を連想させる色であり、環境にやさしい店のイメージアップになりました。
フランチャイズ化と株式公開
1号店はまたたくまに繁盛します。すぐに二号店の計画を立てますが、銀行に融資を断られてしまいます。
そこで地元の実業家イアン・マグリンと交渉し、株式の半分と引き替えに、4000ポンドの融資を受け、無事に二号店を開店したのは一号店開店の6ヶ月後のことです。
ゴードンが1977年に帰国するまでには二号店も繁盛店となり、ザ・ボディショップの商品を扱う店を開きたいという申し込みもくるようになっていました。それも広告を一切だささずに、クチコミだけで広まったのでした。
それを見たゴードンは、ザ・ボディショップのフランチャイズ化を思いつきます。フランチャイズ応募者には女性が多いということもイメージアップにつながり、フランチャイズ網は拡大していきました。
1982年には1月2店舗の割合で新規店舗が開設されていきました。
1984年に株式を公開したところ、初日から株価は急騰し、ロディック夫妻と2号店出資者のマグリンは億万長者となりました。
その後、フランチャイズはさらに拡大を続け、世界64カ国、2500店舗以上に展開することになります。
社会への貢献
ビジネスと社会的な貢献の両立
「企業には世界をよくする力がある」というロディックの考えは、ザ・ボディショップの掲げる
- 化粧品の動物実験反対
- コミュニティ・フェアトレード(公正な取引により、地域社会を支援)
- セルフエスティーム(自分らしさを大切にする)
- 人権尊重、環境保護
という5つの価値にも片影されています。
社会と環境の変化の追求を追求しながらも事業を行うこと、店舗と製品を使って人権と環境問題を顧客に伝えることがザ・ボディショップの存在意義だというのです。
化粧品の動物実験反対
たとえば、化粧品の動物実験反対では、1996年に全世界の店舗で「化粧品の動物実験反対キャンペーン」を実施し、400万人の署名を集めてECに提出しています。
1997年には大手化粧品会社として初めて、世界の主な動物保護団体が定める国際基準「人道的化粧品基準」を導入しました。
EU(欧州連合体)は2004年、化粧品の最終製品に対する動物実験禁止を発令し、2009年には原料に対する動物実験を禁止しました。
その後も、全世界での化粧品動物実験廃止のため、ザ・ボディショップはグローバルキャンペーンを行い、署名を集めています。
蚊のように小さな存在でも
他にも、グリーンピース、アムネスティインターナショナル、アマゾン川流域の熱帯雨林保全、オゴニ族の人権問題に対する支援など、ロディックやザ・ボディショップがかかわった社会貢献活動は数多くあります。
社会的な貢献はビジネスのプラスになったといえます。マスコミに企業の社会的貢献を取り上げられる一方で、ザ・ボディショップの製品を使うことで社会に貢献したいと願う忠実な顧客層を産み出すこともできました。
1992年には売り上げが2億3,100万ドルを超えた店舗は700にも及びました。
ザ・ボディショップの配送トラックには、「自分の存在は小さすぎて影響力などないと思う人は、蚊と一緒に寝てみれば」と書かれています。
小さな蚊がいるだけで人は眠れなくなるように、どんな小さな存在でも何らかの影響を与えていくことはできるはず、というロディックの信念を表しているのです。
最後まで信念を貫く
引退
とはいえ、ザ・ボディショップの増収と知名度が上がるにつれて、ロディックの関心は事業よりも社会活動のほうに移っていきます。
それにつれて模倣企業がザ・ボディショップの顧客層に食い込んできました。ザ・ボディショップに好意的であった批評家から「偽善的」と非難を受けることもありました。
1996年までには変化が必要であることは明らかでした。
ロディック夫妻は第一線から退き、外部経営者にザ・ボディショップの再建をゆだね、1998年にはCEOを辞任しています。
しかし、すぐれた事業家であるという評価も、社会活動に対する熱意も高く評価され続けました。国連環境計画、環境への注目賞など数々の賞に輝き、2003年にはデイムの称号を授与されています。
5,100万ポンドの遺産の行方
ロディックが脳内出血で他界したのは2007年のことです。1971年に侍女を出産した時に使われた輸血が原因で肝硬変にもかかっていました。
死後公開されたロディックの遺言は話題になります。5,100万ポンドの遺産をすべて慈善活動と税金に使われることになりました。家族には何も残されませんでしたが、夫も娘も異議を唱えませんでした。
生前、ロディックは「お金というのは私には何の意味もありません。最悪なのは拝金主義、お金を積み上げようとする行為です」と語っていました。最後まで自分の信念を貫いたのでした。
【参照URL】http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/6988343.stm
http://www.amazon.com/Body-Soul-Profits-Principles-The-Amazing/dp/0517881349/ref=cm_cr_pr_product_top
http://www.anitaroddick.com/aboutanita.php
http://www.brainyquote.com/quotes/authors/a/anita_roddick.html
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-559946/How-Body-Shop-founder-Anita-Roddick-kept-word-left-NOTHING-children–despite-having-51million-fortune.html
http://www.entrepreneur.com/article/197688
http://www.independent.co.uk/news/people/profiles/how-anita-changed-the-world-402108.html
http://www.thebodyshop.com/services/aboutus_anita-roddick.aspx