ライフコーディネーター・クリエーターでは、何のことかぴんとこないのではないかと思われたのでしょう。
スチュワートがホステスを務める番組が日本のケーブルテレビなどで放送された時、「カリスマ主婦」として紹介されていました。たしかに、スチュワートが携わる料理、園芸、手芸、室内装飾などは主婦がやることと思われているジャンルです。
しかし、雑誌の出版、テレビのレギュラー番組の制作、オリジナルブランドの商品販売を行うスチュワートの会社は2014年2月の時点で社員406人を抱え、ニューヨーク証券取引所に上場しています。
テレビや雑誌に登場する単なる有名な主婦なのではなく、生活にまつわるアイデアを武器に事業を展開する実業家として評価を受けているのです。
創業まで
ポーランド移民の両親の6人兄弟の2番目として、ニュージャージー州で1941年に生まれています。父のエドワード・コスティラはセールスマン、母のマーサ・ルスコウスキー・コスティラは教師という中流階級でした。
父からは園芸の情熱を受け継ぎ、料理好きの母親から様々なレシピを学びます。この母は後日、スチュワートの番組の常連出演者となります。
バーナードカレッジで美術、ヨーロッパ史、建築史を学びますが、大学の授業は奨学金とモデル業でまかなっています。13歳の時から続けていたモデル業ではファッションショー、テレビ、広告に登場しています。
大学在学中にイエールのロースクールの学生だったアンドリュー・スチュワートと出会い、1961年に結婚します。一年の休学の後、バーナードカレッジに戻り、歴史と建築史の学位を取得します。
娘の誕生後は株のブローカーをしていましたが、証券不況でコネチカット州ウェストポートに移り住みます。19世紀の農家を購入して修復をして家族3人で住むことにしました。
ケータリング事業と初めての本
しかし、スチュワートは主婦の座だけに収まるつもりはありませんでした。得意の料理を生かしたケータリング事業を1970年代に始めます。
自宅の地下でモデル時代の友人ノーマ・カラーと始めたこのベンチャーは、まもなくその料理とユニークでアイデア満載のプレゼンテーションは注目を集めるようになります。しかし、カラーとの協力関係は長続きせず、二人は袂を分かつことになります。
グルメフード店のマネージャーを経て設立したマーサ・スチュワート社は数々の企業やセレブを顧客に抱え、100万ドル(約1億円)の売り上げをあげるまでに成長します。
一方、夫のアンドリューはニューヨーク市の出版社の社長となり、手がけた本がベストセラーとなります。スチュワートの会社がケータリングを任された記念パーティーで、スチュワートはクラウン出版グループ社長のマーケンに紹介されます。
スチュワートの才能に感銘を受けたマーケンから料理本の出版を持ちかけられたスチュワートは、自分が開いたパーティーの写真を使ったレシピ本を書き上げます。
1982年に出版された『エンタテーテイニング』はベストセラーとなり、その後、『マーサ・スチュワートのクイッククックメニュー』、『マーサ・スチュワートのクリスマス』、『ウェディング』などが次々と出版されることになります。
この間、新聞、雑誌にもレシピや家事のヒントを掲載し、テレビにも出演し有名人となっていきます。
仕事がうまくいく一方で、私生活には波乱がありました。
1990年にアンディとは離婚しています。娘のアレクシスは母親のスチュワートが引き取ることになりました。夫との関係は破綻したとはいえ、アレクシスとは良好な関係が続き、レシピの提供や番組への出演などスチュワートの事業を協力するようになります。
独自雑誌とテレビ番組を開始
1991年、『マーサ・スチュワート・リビング』という自社の雑誌の出版を開始し、スチュワート自身が編集長に就任しました。
1993年、雑誌に掲載されたアイデアをもとに、週一回半時間のテレビ番組の放送も開始しました。高い視聴率を得たこの番組はすぐに1時間枠となり、平日は1時間、週末に30分のエピソードが放送されるようになります。
その一方で、CBSが放送する朝の人気番組アーリー・ショーや休日のスペシャル版にも登場します。
テレビ番組『マーサ・スチュワート・リビング』はエミー賞を受賞し、オリジナルブランドの販売も始めます。また、テレビと雑誌は相乗効果を上げ続け、放送がヒットするにつれ、雑誌の売れ行きも伸びていきました。
雑誌、テレビともに常に新しい、いいもの(グッドシングズ)を見つけて紹介を続けます。
コーヒーを凍らせてコーヒーアイスキューブを作るといったアイデアもグッドシングズになりますが、ガーデニング用ツール、キッチン用品などスチュワートがよいと思った製品も、グッドシングズとして紹介されました。
スチュワートが紹介した製品は質がよいと消費者の評判を呼び、売り上げが伸びていくため、スチュワートにとりあげてもらいたいというメーカーが殺到します。しかし、実際に使ってみてよいと思ったものしか紹介しないという姿勢を貫いています。
また、「完璧主義」と呼ばれるほど、最高のものを達成するために努力を惜しまないことでも有名です。家事を芸術の域にまで高めたと賞賛を浴び続けるようになります。
1995年5月にはニューヨークマガジンの表紙を飾り、「今の時代の信頼できるアメリカ女性」と呼んでいます。
マーサ・スチュワート・リビング・オムニメディア(MSLO)
マーサ・スチュワート・リビング・オムニメディア(MSLO)と名を変え、スチュワートが会長兼社長兼代表取締役となった会社は、「マーサ・スチュワート」ブランド資産のすべてを統括するもので、1999年にニューヨーク証券取引所で上場を果たします。
株価ははねあがり、スチュワートは自力で億万長者になった最初のアメリカ人女性となります。2002年に株価が下がると、持ち株数を増やし、大株主として会社の支配権を握り続けます。
インサイダー取引で有罪に
順風満帆に見えたスチュワードでしたが、自らのミスで大きな問題を起こしてしまいます。
2002年、製薬会社が開発した癌の新薬の申請が却下されたことをスチュワートは友人の製薬会社の役員から知らされました。そして、この事実が公表されて株価が値下がりする前に持株を売ってしまったのです。
その結果、2004年、インサイダー取引、証券詐欺を行ったとして有罪判決が下されます。禁固5ヶ月、自宅謹慎5ヶ月、罰金3万ドルの罰金が課せられました。
全米にいたマーサホリック(マーサ中毒)が離れていき、テレビ番組の打ち切り、ブランド製品の販売低下、雑誌の広告収入の激減、株価の値下がりなどが相次ぎます。
「無実であることを知ってもらいたいのです。汚名を晴らすために戦います」と述べていたスチュワートは、これ以上のイメージダウンを避けるため、服役します。
復帰
2005年3月、釈放されたスチュワートは劇的なカムバックを果たします。マーサ・スチュワート製品がKマートに並ぶようになったばかりか、大手百貨店のシアーズ、メイシーズでも扱われるようになります。
取り扱ったのは日用品だけではありません。2006年にはスチュワートが監修した家(最終的には650軒)が販売されました。
ノースカロライナ州テレビ番組も復活し、2006年度エミー賞6部門にノミネートされました。人生とビジネスの成功法則を書いたマーサの成功ルールも出版します。
すべての起業を志す人に夢と情熱、ビジョンの表明、ビジネスプランのアドバイスしようと書かれたものですが、きっかけは連邦刑務所で服役していた女性たちの起業願望を聞いたことだといいます。
つらい経験もプラスになることを示そうとしたのかもしれません。
まとめ
70歳をすぎた今もなお、スチュワートは精力的に働いています。パワーの源は、「私の新しいモットーは、変化をやめたら、終わりということ」という言葉にあるように、変化をおそれず取り入れ続けていることにあるのかもしれません。
たとえば、ツイッターの威力に最初に気がついた有名人の一人として知られています。最近、3Dプリンターがグッドシングズの仲間入りをしたことが、技術系サイトでとりあげられています。
柔軟に新しいものを取り入れることを知っているスチュワートは、まだまだ目を離せないビジネスパーソンのようです。
【参考URL】http://3dprintingindustry.com/2014/01/13/3d-printers-now-good-thing-declares-martha-stewart/
http://en.wikipedia.org/wiki/Martha_Stewart
http://en.wikipedia.org/wiki/Martha_Stewart_Living_Omnimedia
http://support-martha.livejournal.com/
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%81%AE%E6%88%90%E5%8A%9F%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB-%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B5-%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%88/dp/4925112910/ref=sr_1_5?ie=UTF8&qid=1402113946&sr=8-5&keywords=%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%88
https://www.google.co.jp/search?q=martha+stewart++forbes&ie=utf-8&oe=utf-8&aq=t&rls=org.mozilla:ja:official&hl=ja&client=firefox-a#hl=ja&q=marthaholic&rls=org.mozilla:ja:official
http://www.reddit.com/r/IAmA/comments/1zqn4d/im_martha_stewart_ask_me_almost_anything_its_a
http://www.biography.com/people/martha-stewart-9542234#insider-trading-scandal&awesm=~oGsx5ooNTqsFNV
http://www.ewednewz.com/2011/10/restructuring-at-martha-stewart-its-a-good-thing/
http://www.forbes.com/profile/martha-stewart/
http://www.forbes.com/sites/michelinemaynard/2012/11/26/why-martha-stewart-is-hip-and-oprah-isnt-but-can-be/
http://www.marthastewart.com/271378/marthas-favorite-good-things
http://www.nydailynews.com/entertainment/tv-movies/martha-stewart-hallmark-moment-show-move-broadcast-cable-september-article-1.193790
彼女については、ティム・ガンが親しみを込めてこてんぱんに書いている事柄を知っている程度。
日本にも彼女の名前を冠したさまざまな製品が出回ってるよ。