古代から未だに受け継いでいる負の遺産があります。それは「奴隷制度」。国際労働機関（ILO）の報告によると、世界で“奴隷”扱いされている労働者は実に2100万人にも上り、このうちの大半は女性と子供達です。

現代でも奴隷制度は撲滅されるどころか規模を拡大させながら、時代と共に形態を変えつつも根強く続くビジネスとして存在しているのです。

また、奴隷を使用しているのは後進国や発展途上国だけの話ではありません。

ILOが把握しているだけでも、奴隷人口の7％は北米及びEU諸国に存在し、イギリスを例にとっただけでも1万3000人が農業、サービス業、家事労働、ネイルサロンなど様々な産業で奴隷として労働を強いられていると考えられています。

国連の統計では、現代の奴隷貿易や人身売買は世界で2番目に規模の大きい違法産業で、ILOが見積もった奴隷貿易などで違法組織が得ている利益額は年間1500億ドル（約15兆2000億円）にも上っています。

イギリスで捕らわれた奴隷たち

イギリスでは2013年に、30年にわたり監禁状態にされ“奴隷”として一般家庭労働を強いられていた3人の女性が保護されています。

ロンドン警視庁によって保護されたのは、マレーシア国籍の69歳、アイルランド国籍の57歳、イギリス国籍の30歳。特に30歳の女性は幼少期から監禁状態にされ、今まで一切外の世界との関わりはなかったとの事。

そして2015年にも23歳から56歳までの男性13人（イギリス人2名、ポーランド人8名、ルーマニア人3名）が強制労働をされていたとして、衛生状態の非常に悪いキャラバンの中で発見されています。

彼らは1日10ポンド（約1300円）、あるいはタバコか酒を報酬として与えられていただけでした。低賃金で長時間労働を強いていたオーナーの自宅からは、

1. 15万5000ポンド（約2000万円）のフェラーリ
2. 9万ポンド（約1100万円）のレンジローバー
3. 2万ポンド（約260万円）のベントレーの高級ゴルフカート
5. 高額な電化製品

そして、多額の現金などが押収されおり、犯罪組織が人身売買で大儲けしている背景が浮き彫りになりました。

現代の奴隷法を設立するも・・・海外で買われる奴隷の現実

この深刻な状況を受け、イギリス政府は2015年3月「現代奴隷法」を成立し、同年の10月より執行しています。

この奴隷法は、現代の複雑で組織化された奴隷制度を全面的に禁じる事と防止を目的としていますが、被害者の保護も含まれており非常に包括的なものになっています。

またこの法律の執行に応じて、奴隷の防止だけを目的とした独立の政府委員会までもが設置されました。

震災被害を利用した悪質な人身売買

しかしイギリス政府の努力もむなしく、今年の4月に再び奴隷の話題が英大衆紙「サン」により暴露されてしまいます。今回奴隷の対象となっていたのは、ネパール大震災で家を失い、インド北部に移住したネパール人難民の子供達でした。

2015年に起きたネパール大震災では約800万人が被災。死者は約9000人、そして90万の家屋が全・半壊するという大惨事でした。あまりの被害の大きさに、受けた経済的ダメージは50億ドル（約5000億円）と言われています。

同紙の報告によると、インドの人身売買組織のメンバーがインド北部に移住した貧しいネパール人の難民家庭を1軒ずつ回り、「子どもを売らないか」と話を持ち掛けているのだそうです。

そして、彼らが買い取った10歳前後の男女の子供たちは、性別に関係なく5300ポンド（約70万円）で売られ、この子供たちはイギリスの裕福な家庭へ無報酬で家事労働をする“奴隷”として送られているとの事です。

他人事じゃない！日系企業にも奴隷がいる！？

イギリスの新しい現代奴隷法は、年間売上高が3,600万ポンド（約47億円）以上の企業に、「奴隷・人身売買報告書」の提出を年に一度義務付けています。

この背景には識字教育レベルの低い貧困層が、貧困から抜け出すために更に負債を抱えてしまった結果、強制労働などの過酷な労働に従事せざるを得なくなる、という悪循環を断ち切る為、というのがあります。

この報告書では全ての企業活動、つまり原料確保や製造、そして製品が消費者に届くまでの全ての一企業内の経済活動の報告が含まれています。

その為、知らない間に下請け会社が従業員を奴隷のように取り扱っていれば、その製品を販売する親会社が何らかの責任を負わなければならなくなるのです。

この法律で対象となるのはイギリス企業だけでなく、イギリス国内で支店や工場等を運営している外国企業も含まれています。

イギリスには、自動車部品や電化製品などの製造業を中心に多くの日系企業が進出しています。サプライチェーンでの雇用体系をしっかりと調査確認しておかなければ、日本の企業も奴隷を雇うブラック企業として世界中の信用を失う可能性があります。

いつの日か奴隷制度が本当になくなる日が来るのでしょうか?

【参考URL】https://www.theguardian.com/world/2016/apr/04/child-nepal-earthquake-slaves-sold-uk

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