海の向こうに待つ黄金の国・・・
その昔、香港からヒッチハイクでユーラシア大陸を横断して、ロンドンを目指すというテレビ番組がありました。
ユーラシア大陸は地続きですから、極端な話歩き続けるといつの日かヨーロッパの西端に到着することは可能です。しかし、そこからイギリスへ向かうにはドーバー海峡という海を越えなければなりません。
泳いで渡ることも決して不可能ではありませんが、今までの最短記録は6時間半らしいので、水泳に相当の自信がないと、泳ぎ切ることが出来る距離ではないですね。
ちなみに、このドーバー海峡を渡るには、イギリス側の「ドーバー」という街とフランス側の「カレー」という街の間を行き来するフェリー、もしくは海底トンネルを通る列車を利用するのが一般的です。
ロンドンーパリ間を繋ぐユーロスターも、この海底トンネルを通ります。
さて、タイトルの「命をかけて渡る・・・」ですが、なぜこのドーバー海峡を渡るのに命を懸けなければいないのでょうか?
この「命をかけて渡る」人たちとは、世界各国から集まった、正規の方法でイギリスへ入国することが出来ない人たち、いわゆる密入国者たちです。
彼らが選ぶ密入国する為の手段とは、フェリーでイギリスへ向かう貨物トラックの中にまぎれこむことなのですが、
- 走っているトラックに飛び乗る
- 荷物の中に隠れる
- トラックの下、車輪と車輪の間にひそむ
と、まさに、命がけでのドーバー海峡横断なのです。
推定では、年間約15,000人が成功してイギリス各地へ散らばっているそうですが、失敗に終わるとあの世行きになる可能性大のこのドーバー越え、先月は一週間で4人の死者がでました。
そして、運よく命を落とさず、失敗に終った何百人(おそらく千人以上)は、このカレーの街でホームレス生活を送りながら次のチャンスを狙っています。
彼らがそこまでして、なぜイギリスを目指すかには幾つかの理由があり、
- 身分証明書のシステムがない為、路上で職務質問を受けても不法滞在者である確認がつきいにくい。
- 英語が通じる。
- 元々、世界各国からの移民が多い国であるため、イギリス人でなくても仕事が見つけやすい。
- 社会福祉が行き届いている。
などが挙げられています。
そこで、実際渡ることに成功した、あるいはカレーでチャンスを待っている人たち、この状況をイギリス人たちはどう思っているのか、声を集めてみました。
【参考URL】http://www.youtube.com/watch?v=NiGYnQU_QpY
www.dailymail.co.uk/news/article-2594640/Dying-Britain-In-one-week-four-desperate-migrants-killed-
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2525009/Up-15-000-immigrants-sneak-Britain-Calais-year-Deputy-Mayor-sa
https://www.youtube.com/watch?v=-WhVkzfL7jo
まずは、成功してイギリスに住みついた人たちから、
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どうやってドーバーを渡ったかって?
トラックの下、タイヤとタイヤの間にしがみついたんだ。落ちたら死ぬってわかってたさ。でも国に戻っても殺されるだけだしね。親父も殺されたんだよ。
イギリスでは政治的な理由で亡命申請を何度も出したんだけど、拒否されたから3年間はホームレスでその後は慈善団体で世話になってるよ。(アフガニスタン人/男性)
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アフリカのコンゴ出身だよ。
どうやってイギリスへ辿りついたかは、詳しくは話せないよ。誰が関わったかバレたら、俺の命に係わるからさ。(コンゴ/男性)
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10年前に、貨物トラックに隠れて来たよ。
建設現場で日雇いで働いて暮らしてきたけど、景気が悪くなって犯罪に手を染め、何度も捕まり刑務所にも入った。移民局にも捕まったんだけど、なぜだか強制送還されなかった。
でも、今は祖国に帰りたくてたまらないのに、帰る方法も金もないんだ。(インド/男性)
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想像していたのとは全然違ったよ。国に居た方がきっといい生活が出来たと思うと、時間を無駄にしてしまった。(インド/男性)
続いて、カレーでチャンスを狙うひとたちです。
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ソマリアから来たよ。
知ってるかい?ソマリアでは長いこと内紛が起きていて、平和に住めるところじゃないんだよ。普通の生活がしたいんだよ。
だからイギリスをめざしているんだ。(ソマリア/男性)
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パキスタンからカレーまで来たよ。走ってるトラックに飛び乗ることが危険だってわかってるさ。
死ぬ覚悟は出来てるけど、イギリスで金儲けがしたいんだ。(パキスタン/男性)
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アフガニスタンを出て5年間、ヨーロッパのあちらこちらをさまよったけど、やはりイギリスにどうしても行きたいだよ。
ここまで生き抜いてこれたのだから絶対諦めないぜ。(アフガニスタン/男性)
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トラックに隠れようとして何度も捕まったけど、イギリスに行くまで、何度でも挑戦するからな。(アフガニスタン/男性)
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別にイギリスに行きたいとも、フランスに居たいとも思ってないんだよ。
祖国で暮らしたいんだけど、戦争が長く続いてるし、危なくて住めないから仕方ない んだよ。(アフガニスタン/男性)
最後に、イギリス人たちは何と思っているのでしょうか。
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すごく不思議なのは、フランスまで来て不法滞在しているのに、何でフランス政府はこの人たちを追い出さないの?
どうせ、イギリスへ密入国するからって放っているのかしら?フランス政府にも問題あるわね。(イギリス/女性)
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イギリスの福祉制度が甘すぎるんだよ。もっと厳しくしたら、来なくなるんじゃない?(イギリス/男性)
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インドからはるばる来て密入国なんかしなくても、インドは景気いいんだからここよりいい仕事が見つかるんじゃないかな。(イギリス/男性)
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どうでもいいけど、こういう不法就労者を取り締まるのも、本国へ送還するにも、税金が使われるんだろ?他に方法はないのかね。(イギリス/男性)
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長距離トラックの運転手してるけど、ドーバーを渡って戻るのは嫌だね。
飛び乗られたり、ドアをこじ開けられたり、たまったもんじゃないよ。(イギリス/男性)
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奴らは死ぬ覚悟が出来てるから何でもするんだ。
もし、知らない間に俺のトラックに乗り込まれて、それがドーバーに着いて見つかったら、俺も3万円以上の罰金を払わされるんだよ。かなわないよ。(イギリス/男性)
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カレーで不法滞在者を支援している慈善団体があるそうだけど、そんなことするならずっと面倒看ればいいのに。(イギリス/男性)
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マフィアなんかの運び屋に百万円近く払って、やっとカレーに到着したんだから、そりゃ、死ぬ気でイギリス目指すよね。(イギリス/男性)
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気の毒な気もするけど、でもだからと言って、全員受けいれるわけにはいかないでしょう。(イギリス/女性)
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移民を受け入れるにも限界があるよ。
医療システムだって教育現場だってもう、飽和状態じゃないか。(イギリス/男性)
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ドーバー海峡も海底トンネルも閉鎖するのが一番の解決法だ!(イギリス/男性)
やって来たのはいいものの - 甘くない現実
命がけでたどり着いたイギリスですが、不法就労の身では、住まいも職探しもそう簡単にはいきません。
例え仕事が見つかったとしても、不法就労であるという立場を悪用され、低賃金で長時間働かされ、劣悪な環境で暮らしている人たちも大勢います。(雇い主も違法行為として見つかれば罰金を科せられます。)
イギリス国民の立場としては、こういった人たちへの福祉手当を懸念している人が多いようですが、不法滞在の身では生活保護手当や公的住居は与えられません。
ただし、病院等での治療は受けることは可能で、身分証明証のシステムがない為、その時点で不法滞在であることは発見されないようです。
彼らが抱える一番の大きな問題は、本国に戻りたくても、不法に入国した人たちの殆どはパスポートすら所持していないため、正規のルートでは出国できないことです。そうなると、今度は、違法に出国する手段を探さなければなりません。
簡単にお金が稼げ、祖国に居たときよりは良い生活が出来ると夢見て、命がけでやって来たはいいものの、現実は決して甘くはないようです。