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リッチヒルと貧乏の屈辱

2014/12/05
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貧乏って何?

貧しい事。財産や収入が少なく生計の思うようにならない事。貧困、貧窮。

辞書はそう定義しています。

ではこの貧乏という言葉は、どのように使われているでしょうか。

本来の意味どおり、深刻な生活難を意味しているものもあれば、単に自由に使えるお金がないとか、貯金がない、遊ぶお金がない、という意味での使われ方まで、かなり幅広くなっている事が観察されます。

ネットの掲示板で「すごいビンボーなんだけどどうしよう?」という質問に「…ネットが使える環境なのに?」という答えもあったりして、思わず頷いてしまいました。

『貧乏自慢』『貧乏旅行』などという表現もその例です。

自慢していられるレベルの貧乏状態、旅行もできる貧乏状態、むしろ節約チャレンジのような感覚でしょう。かくいう私自身も『ビンボー留学時代』の話をする事がありますが、海外留学できる貧乏状態って一体何なんだろうと思います。

その留学時代の出来事です。

飲み物代を節約するために、日本人の友人は毎日水筒を持参していました。それに気づいたアフリカ人のクラスメイトが理由を尋ねてきました。

日本人仲間と一緒に「ビンボーだから節約」と笑いながら何の気なしに答えました。すると、このクラスメイトは自分のポケットから小銭を集め、学食の自動販売機で飲み物を買ってきて、友人に差し出したのです。

しかもこのクラスメイトは、騒乱の絶えない母国から亡命者として逃れてきていて、狭いアパートで共同生活をし、政府からのごく小額の手当てで暮らしていたのです。友人の戸惑いと罪悪感は、そこにいた私達日本人はみな、痛いほど理解していました。

日本人同士なら、このビンボーのニュアンスは分かります。本当に困窮しているわけではない事を承知の上で、貧乏トークは成り立ってしまいます。こうやって節約した、限られたお金でこれだけできた、という話は実際役に立ちますし、面白いですから。

それにしても、かつて中流意識が高いとされた日本なのに、自分の事を貧乏と考える、貧乏人だと自分から言う人は多いのです。貧乏自慢のサイトでも「そんなの大した事ない。私なんか…」と、競争レベルに発展していたり。

いずれにしても、本当の意味で貧乏かどうかは別として、『自分は貧乏だ』と言う事に、日本人はあまり抵抗を感じていないと考えてよいでしょう。

貧乏に対する認識、海外では?

皆さんは、最近アメリカで公開された「リッチヒル」という映画をご存知ですか?

それは、ミズーリにあるリッチヒルという小さな町で生活する、3人の少年にスポットを当てたドキュメンタリー。

リッチヒルという名前とは裏腹に、貧困家庭に生まれ育った彼らのストーリーは、アメリカンドリーム、つまり『努力すれば必ず成功する、幸福が手に入る』という概念を持つ、この先進国の実情を映し出しています。

‘リッチヒル、アメリカンドリームの陰に潜む貧困と薬物と恥辱’と題し、ガーディアン紙、マネーブログはこの映画についてこう書いています。

アンドリューの家は、ストーブの上でお湯を沸かすためのバケツであふれかえっている。わずかな家具。むき出しの壁。でも、家庭が貧しいのかとアンドリューに尋ねれば、その答えは『ノー』なのだ。

「貧乏とは屋根が無い事、明かりが無い事、水や食物が無い事。僕達の家には明かりがある。僕たちは貧乏なんかじゃない。」とアンドリューは言った。

実際、アンドリューの家族はこれらの物をすべて持っていると言えるのかもしれない。ただ、同時に存在していないのだ。

父親は臨時の仕事が見つかれば働いている状態で、収入はあったりなかったり。その結果、家族はたびたび水道水無しで、また屋根なしでの生活を強いられている。

アパチーと彼の兄弟達は、父親が出て行って以来、シングルマザーの母親によって育てられてきた。ハーレーの母親は殺人未遂で刑務所に入っている。彼は父親と彼の新しい妻と暮らすよりも、父方の祖母と8人の拡大家族と生活する事を選んだ。

アパチーもハーレーも地元の青少年課でよく知られている。

ハーレーは怒りをコントロールするための薬を処方されており、学校も常習的に無断欠席、その結果保護監察官が付けられた。アパチーは暴れまわる事が多くなり、14歳になる頃にはミズーリ少年院施設に入っていた。

「リッチヒル」の試写会が終わるとアンドリューは、「僕は速く成長しなければならなかった。」と語りました。家族の収入を助けるため、職を見つけるコツを急いで身につけなければならなかったと。「僕が家々を廻って尋ねれば、大抵仕事をもらえるから。」

実際にアンドリューはこの方法で、芝刈りの仕事をもらえました。20ドルというわずかな報酬で。それでも、「この手の仕事なら、大人よりも子供の方が有利」とアンドリューは考えます。

確かに、彼の父親のような40代の大人が同じ事をしても、住民は戸惑うだけでしょう。

貧困から抜け出せない?

ガーディアン紙は、この映画のプロデューサー兼監督であるトレーシー・ドロズ・トラゴスへのインタビューに成功しました。アメリカンドリームの陰に隠れたこの実態について、また経済状況が子供時代をいかに左右するかについて、その対談を掲載しています。

Q: アンドリューはまるで一家の主のようですが?

A: いろんな意味で、親と子を隔てるラインが曖昧になっています。

私自身の考えでは、親の年齢も理由の一つです。年若くして子供を持つ親は、自分達自身がまだ成長し終えていないんです。ですから親になってからその遅れを取り戻すのに苦労し、ストレスや重荷を抱える事になるわけです。

それを軽減するために、彼らの子供たちが、本来親が果たすべき責任を引き受けて、肩代わりをする羽目になるのです。」

Q: リッチヒルは小さな町ですよね。地域社会は少年たちの暮らしで、何らかの役割を担っていますか?それとも気性の荒い少年達なので、距離を置いて、関わらないようにしているでしょうか?

A: アメリカンドリームと、その根拠の無い神話が関わってくるのはここです。

この少年たちの境遇は、恥とみなされます。助けを必要とする事自体が恥辱なのです。だから少年達は表向きを繕って、万事オーケーという振りをし続けます。

結果、地域社会にとってこうした実情が、隠された未知のものになってしまいます。

子供達は学校でも、周囲の子供達となんら変わりないように振舞います。『自分はオーケーだ。何の問題もない。助けもいらない』というメッセージなのです。

なぜなら、アメリカンドリームの概念によれば、一生懸命働く人は助けを必要としないんです。勤勉に働きさえすれば全てうまく行くはずなんです。

しかし、現実はそうはいきません。

貧困に振り回される子供時代

同記事はこう続けています。

アンドリュー、アパチー、ハーレーは心の中ではまだ幼い子供だ。誕生日にははしゃぎ、米国独立記念日には線香花火で遊びたがる。フットボールを楽しみたい。

しかし残念な事に、生活がその邪魔をする。アンドリューはハイスクールのフットボールチームに入ったが、数週間後には、家に未払い請求書がたまり、夜逃げしなければならなかった。

「家賃を払えない事がしょっちゅうだからです。」とプロデューサーは言った。

「アンドリューの家族は背中に衣類をしょって、わずかな身の回り品をゴミ袋に詰め込み、真夜中に逃げ去らなければならなかったのです。」

「1500ドルあったら…。でも一週間や二週間でつくれる金じゃない」とアンドリューの父親は言う。

「お父さんは安定した仕事、安定した職業に付きたがらないから…!」アンドリューの声はいささか辛らつになった。その夜逃げの後、新しく引っ越した家も、結局また出なければならなくなり、いとこの家に世話になる羽目になったという。

アメリカンドリームという成功の概念。今だその影響下にある彼らは、自分たちの貧困状態を認め、助けを求めるのは『恥辱』だと考えるのです。

必要な助けを受けないまま今日も続く彼らのサバイバルストーリーは、人々の反響を呼びおこしました。

【参考URL】http://www.theguardian.com/society/2014/aug/05/rich-hill-american-dream-poverty-drugs-shame

この記事に対する海外の反応

これらのアメリカ国民は、ネグレクトの犠牲者ですよ!彼らを無視し続ける事はそのうちできなくなるでしょうね。

私達の国は、冷淡な共同搾取に巻き込まれた、倒産した国家なのです。(女性)

メディアは都心部にいる貧しい少数派には十二分の注意を向けるが、田舎に住んでいる貧しい白人たちは、彼らにとっては存在しないも同然なんだ。

人間やってる事自体がチャレンジなのさ。

うまく乗り越えるやつらもいれば、そうでもないのもいる。それが現実だ。

私自身の境遇にいれば、人生は素晴らしいよ。

上中流階級の白人コミュニティ、美しい風景、10人の住人につき親切な警察官が一人、犯罪はゼロ。

しかし、これは現実の世界ではない。

私たちは皆、実際の世界がどういうものか知っている。混雑・騒音、不快で暴力的であり、子供たちは貧しく、望まれず、愛されず、怒りを抱いている。

この野蛮な子供達の親を見てみろ。彼らはそれでも家族を増やし続けている。無教育、希望も未来も無い、住む所さえないひどい困窮状態でも、いまだに赤ん坊を作り続けているんだから。

全く、いいプランだよ、アメリカ!

↑貧しい人達が野生動物みたいに子供を増やしているという、あなたの推論には誤りがあるわ。典型的な偏見ね。

実際、社会福祉の援助を受けている人々の子供の平均数は2.4で、殆ど離婚した白人達なんだから。あなたの意見は、偽装した人種偏見と呼ばれるに値するわ。

アメリカは工業化した他のどの国家よりも、厳格な社会経済構造を持っている。

アメリカンドリームは貧しい人々には死んだものだ。だが合衆国の金持ちに適した社会主義はしっかりと存在している。

この映画については聞いたことがなかったが、この国で実際に何が起きているのか、これまで全く注意を向けられなかった事実を暴いているようだ。

ここで取り上げられている問題は、私自身、馴染みがある。

学校に一緒に通った子供達の多くは初めからチャンスなどなく、今も逆境と闘い続けている。田舎には貧困は存在しないとか、白人は決して貧乏にはならないなどという、とんでもなく愚かな事を言う人々によく出会う。

この問題に注意が向けられた事は嬉しいが、自分自身体験してるだけに、この少年が窮地から救い出されるかどうかは定かではない。

ヘッドラインには‘貧困、薬物と恥辱’とあるけど、ドラッグには触れていないね。

↑そうだね。確かに、薬物っていうのが気分障害のために処方された薬のことで、違法ドラッグのことではない事を明確にできただろうな。

まず間違っているのが、問題の根源が貧しい人々自身にあるという考えだ。

もう一つは、人々が自分は決して貧乏にならないと思い込んでいる事。

↑貧しい人々を非難する前に、彼らに対する組織的圧迫に終止符を打たなければいけないよね。

↑組織的圧迫に終止符?100パーセント賛成だ。

でもアメリカ合衆国は貧しい人々を組織的に苦しめたりはしていない。もしそれが君の暗示している事なら、100パーセント間違っているよ。

間違ってるだけでなく、事実に対して故意に盲目になっている。

刑務所にいるシングルマザー、父親は出て行った、そして子供たちは王様のような暮らしをしていないだと?

あり得ない!アメリカではそんなはずは無い!

夢を掲げ、現実を忘れなさい。誰でも大統領になれるのだ。

-サポートしてくれるミリオネイアが集まればの話。

うん、いい記事だ。

貧しい状態にあることの恥辱というのが、多くを要約している。私たち皆が、トップ階級の10%に入れてもらえないのが残念だね。

↑賛成。貧しい事は実際恥辱ではないもの。

私の国の何百万人もの子供たちの運命だ。(男性、インド)

いまやオバマは何十億ドルもアフリカに送っている。

そんな狂ったことはやめて、自分の国の人々をまず世話すべきだろう。

この子供達の窮境は親だけでなく、国によるネグレクトだ。

‘神よアメリカを祝福したまえ’…イエイ、本当だ。

まとめ

貧困というと発展途上国を想像していましたが、先進国にもそれは存在し、子供達の成長に深刻な影響を与えている事を、この記事によって痛感しました。

先進国だからこそ、アメリカンドリームがいまだに存在しているからこそ、SOSを発する事ができないというのは全く皮肉なことです。かつてポジティブな原動力であったこの概念が、貧しい人を孤立無援の状態に追いやっているのですから。

“貧乏”という言葉についてここまで考えさせられたのは初めてだ。なんだかもう軽い気持ちで(自虐の意味をもって)貧乏だなんて言えないよ。国の問題としての圧迫を少しでも早く緩和できたらいいね。貧困に押しつぶされそうな子供達をみるのはつらい。
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この記事に対するコメント
  1. 名無し より:

    まあでもこの子の親や、兄弟見た限りだとなぁ……
    国が莫大な予算を割いて支援や機会を与えてようやく何とかなる極貧層を助けるよりは
    中産階級を支援した方が国の関与も最小限に抑えられるしその方が良い
    0を1にするよりは1を2にする方が楽だし、より優秀な人材を確保出来る
    ずば抜けた人材はどんな境遇からでも芽が出るしな
    アメリカン・ドリームは勤勉と努力の前に才能の前提条件を足すべきだったな

  2. 日本の名無しさん より:

    結果がすべて自己責任ってのは確かに先進国のつらいところだよね
    途上国に比べて言い訳ができない
    努力しても運に恵まれない人間もいるわけで…
    キリスト教はその辺のカバーがまだマシな方と言える
    全ては神の意志によるものだと思ってれば、幾分か気持ちが楽になる
    絶対神のいない、日本みたいなとこだとそういう言い訳もできない
    ドグマに縛られることはないけど、結果はすべて自己の力量と行いによるところとみなされる
    自殺者が多いわけだわな

  3. 日本の名無しさん より:

    この記事の枕、面白かった。
    日本人が抵抗なく貧乏自慢をしがちなのは、世界的にはまだまだ格差が少ない国で、無自覚にだいたいみんな同じ生活をしてることを前提にして喋れるからなんだと思う。だからささいな違いを言いたてて自分の清貧や節約上手を自慢する遊びが可能。
    まあそんな今の日本でも、本当に生活レベルにコンプレックスがあったら気軽に言えないし、「恥辱」なんだけどさ。

  4. 日本の名無しさん より:

    仲間と自分が欲しい物を言い合って自分が今どれだけ節約してるのかを語り合うっていうのはよくやるな。
    これができなくなりつつある国なのかなニッポンって。

  5.   より:

    ちょうど今録画してるのを見てるところだわ
    ほとんどの家が、親がそもそも不幸(貧乏)で精神疾患を持っていて、不幸が循環してる
    ろくな環境も教育も、家庭すら与えられていない。子供も精神病になるのは当たり前だわ
    単に子供を産むことは決してよいことではない、ということを親は学ぶ必要がある
    貧乏人が子供を産んでも、搾取されるだけか、ゴミとして扱われるだけだって自覚した方が良い。
    「金がすべてじゃない」「人間は平等だ」とかいう耳障りのよいまやかしを信じて、貧乏人で頭の悪い奴は子供を産んで、本当は最愛のはずの子供を、更に惨めな状態に陥らせている

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